SaaS事業におけるKPIとは?KPIツリーや管理方法なども
ビジネスで成果を上げるためには、SaaS事業の特性に合わせたKPIの設定が欠かせません。
しかし、具体的にどういったKPIツリーを設定すればよいのか分からない方、KPI管理方法のコツが分からないという方もいるでしょう。
そこで今回は、SaaS事業でKPI管理が必要な理由に触れつつ、代表的なKPIやKPIツリー、管理のコツなどを詳しく解説します。
SaaS事業でKPI管理が必要な理由
まず、KPIとSaaS事業の概要について触れましょう。KPIやSaaS事業の概要を明確にし、これからの解説内容を理解しやすくするためです。
KPI(キーパフォーマンスインジケーター)とは、日本語では「重要業績評価指標」と訳され、ビジネスで成果を上げるために重要な要素とされています。
KPIは、最終目標であるKGI(キーゴールインジケーター)を達成するための中間目標という位置づけです。
そして、SaaS事業とは、「Software as a Service」の略称で、クラウドサービスをインターネットを通じてユーザーに提供するビジネスモデルのことです。
それでは、さっそくSaaS事業でKPI管理が必要な理由を解説します。
具体的には以下の3つが挙げられます。
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- 現状把握や将来予測が不可欠
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- まだ収益が出ていないフェーズも評価できる
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- 事業に対する共通の認識を持てる
どれも重要な理由のため、それぞれについて詳しく解説しましょう。
現状把握や将来予測が不可欠
SaaS事業に限らずどの事業でも言えることですが、ビジネスにおいて定量的な現状把握や将来予測は不可欠です。
現状と目標とのギャップを正確に把握することで、自社の強みや弱みを理解し、課題を解決するための施策立案ができるようになります。
将来のリスクやチャンスなども予測できるようになると、早期に対策ができるため、事業展開の見通しを立てることが可能です。
まだ収益が出ていないフェーズも評価できる
また、KPI管理をしっかり行うと、まだ収益が出ていないフェーズでも、事業の好不調や課題を把握できるメリットがあります。
例えば、リード獲得率やリーチ率などから売上見込みを立てることもできるでしょう。
KPIを用いると、主観に左右されず、数値で状況を把握できるため、今後の戦略立案にも役立ちます。なるべく早い段階で評価できると、経営のかじ取りがしやすくなるでしょう。
事業に対する共通の認識を持てる
KPIを設定・管理・共有することで、社内メンバーだけでなく、社内外の投資家などとも事業の現状や今後の目標について共通の認識を持つことができます。
投資家や金融機関がSaaS企業への投資・融資を行う際、その判断材料としてKPIを確認することもあるでしょう。
特に、SaaS事業では代表的なKPIがいくつかあり、共通認識のもとで理解し合えることが少なくありません。
SaaS事業のKPIをしっかり可視化および分析し、適切な評価や判断をしていくと、対外的にもしっかり良い評価を受けられるでしょう。
成長性:SaaS事業における代表的なKPI
続いて、適切なKPI管理を行う上で重要となる代表的なKPIについて解説します。
「成長性」「効率性」「継続性」の3つに分けて解説するため、どういった関係性を持つか考えつつ、整理してみてください。
MRR(月間経常利益)
MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略称で、「月間経常利益」のことです。
SaaS事業が毎月継続的に得られる売上のことを指すため、初期費用や追加オプションなどは含みません。MRRの数値が高いほど、経営が安定していると言えます。
ARR(年間経常収益)
ARRとは「Annual Recurring Revenue」の略称で、「年間経常利益」のことです。
MRRとの違いは、対象とする期間の長さです。ARRは、年間契約型のSaaS事業を行っている場合に重要視されることが多くなっています。
CMRR(確定済みのMRR)
CMRRとは「Committed MRR」の略称で、「確定済みのMRR」のことです。
例えば、年間契約といった形ですでに契約を結び、確定されている収益を指します。
CMRRを計測することで、MRRよりもさらに精度高く将来の積み上げ収益を把握できます。
ARPU(1ユーザーあたりの平均売上)
ARPUとは「Average Revenue Per User」の略称で、「1ユーザーあたりの平均売上」のことです。
一般的に「売上金額 ÷ ユーザー数」で算出します。
ASP(新規顧客1人あたりの平均売上)
ASPとは「Average Sales Price」の略称で、「新規顧客1人あたりの平均売上」のことです。
一般的に「新規顧客の増加によって獲得したMRR ÷ 新規顧客数」で算出し、継続的に新規顧客の傾向を掴むために用いられます。
効率性:SaaS事業における代表的なKPI
次に、SaaS事業における効率性の代表的なKPIについて解説します。
LTV(顧客生涯価値)
LTVとは「Life Time Value」の略称で、「顧客生涯価値」のことです。
顧客1人が契約期間中にもたらす収益の平均値を示します。LTVを把握すると、顧客1人にかける費用をいくらにするか見定めやすくなります。
CAC(顧客獲得費用)
CACとは「Customer Acquisition Cost」の略称で、「顧客獲得費用」のことです。
顧客1人を獲得するために必要だった費用の平均値を指します。一般的に「(営業コスト+マーケティングコスト) ÷ 新規獲得顧客数」で算出します。
Unit Economics(顧客1人あたりの採算性)
Unit Economicsとは「顧客1人あたりの採算性」のことです。
「LTV ÷ CAC」という計算式で算出し、一般的には値が「3」以上になるのが好ましいとされています。
顧客を獲得するために必要だった費用が妥当であったか評価する時に用います。
CAC Payback Periods(顧客獲得コスト回収期間)
CAC Payback Periodsとは「顧客獲得コスト回収期間」のことです。
顧客を獲得するために必要だった費用を何ヶ月で回収できるかを示し、販売効率を計測する時に用います。
Magic Number(販売効率)
Magic Numberとは「販売効率」のことです。
営業やマーケティングにかかった費用あたりいくらのARR(年間経常収益)が増加するかを示します。
算出方法は「((当四半期の経常収益 – 前四半期の経常収益) × 4)÷(前四半期の営業コスト+マーケティングコスト)」です。
一般的には、Magic Numberが「0.7」以上であれば、販売効率が高いため、営業およびマーケティングにかける費用への投資を加速してよい状態とされています。
ただし、Magic Numberの数値だけで投資するか判断するのではなく、トータルとしての顧客獲得コスト回収期間(CAC payback periods)もあわせて考える必要があります。
継続性:SaaS事業における代表的なKPI
続いて、SaaS事業における継続性の代表的なKPIについて解説します。
Churn Rate(解約率)
Churn Rateとは「解約率」のことです。
収益全体や顧客数全体に対する解約の割合を示しますが、契約を必要としないビジネスモデルによっては、「退会率」や「離脱率」が扱われることもあります。
中長期的な経営安定性を図るには、Churn Rateに注視することが必要です。
Net Churn Rate(純収益ベースの解約率)
Net Churn Rateとは「純収益ベースの解約率」のことです。
既存顧客による「継続」や「解約」に加えて、既存顧客によるExpansion(利用拡大)も考慮した金額が対象となり、新規顧客によるNew MRR(新規顧客の増加によって獲得した月間経常利益)は対象外です。
AU(アクティブユーザー)
AU(アクティブユーザー)は、実際にサービスを利用している顧客が何人いるかを示すKPIです。
1日あたりのAUをDAU(Daily Active User)、1ヶ月あたりのAUをMAU(Monthly Active User)と呼びます。
NPS ®(顧客ロイヤリティ)
NPS ®とは「Net Promoter Score」の略称で、「顧客ロイヤリティ」のことです。
サービスを他者にどれだけ勧めたいかを定量的に示すもので、アンケートで測定します。
既存顧客に対する質問内容は「このサービスを知人や友人にどれだけ勧めたいですか?」というもので、0〜10点の11段階で回答してもらい、0~6点を「批判者」、7~8点を「中立者」、9~10点を「推奨者」と定義します。
それぞれの割合から「推奨者の割合(%)- 批判者の割合(%)」を算出し、サービスの品質改善や購入プロセスの見直しなどを行います。
ただし、質問の仕方で回答が変動することもあるため、慎重に設定する必要があります。
また、日本人は平均的な回答を好む傾向にあり、回答結果が偏る可能性があることも頭に入れておきましょう。
CES(顧客努力指標)
CESとは「Customer Effort Score」の略称で、「顧客努力指標」のことです。顧客がサービスを利用するために要した時間や労力を表します。
CESが多くなっている場合、顧客がサービスに不満やストレスを感じている可能性が高く、解約につながりかねない状態だと言えます。
TtV(価値を実感するまでの時間)
TtVとは「Time to Value」の略称で、「価値を実感するまでの時間」のことです。
「価値」とは、顧客がサービスに投資することで得られると期待している利益のことを指します。TtVが短いと、継続的にサービスを利用してもらいやすいと言えます。
NRR(売上継続率)
NRRとは「Net Revenue Retention」の略称で「売上継続率」のことです。既存顧客からの収益が一定期間内にどれほど増減したかを示します。
既存顧客がどの程度サービスの価値を感じているかを見極めたり、翌期にどれほどの売上を期待できるかを予測する時に用います。
SaaS事業における代表的なKPIツリー
代表的なKPIを把握した上で、続いては代表的なKPIツリーについて解説します。
なお、KPIツリーとは、最終目標(KGI)を頂点に置き、目標を達成するまでに必要な要素であるKPIをツリーの枝葉のように段階的に設定するもののことです。
SaaS事業の収益構造を把握する場合
「売上」を最終目標とした場合、その下には「MRR(月間経常利益)」や「ARR(年間経常収益)」などを設定し、さらにその下には「ARPU(1ユーザーあたりの平均売上)」や「顧客数」を設定します。
既存顧客数にこだわるのなら、前月の顧客数と今月の顧客数を比較したり、解約率に着目したりするとよいでしょう。
SaaS事業の採算性を把握する場合
「Unit Economics(顧客1人あたりの採算性)」を目標に置いた場合、その下には「LTV(顧客生涯価値)」や「CAC(顧客獲得費用)」を設定します。
さらにLTVの下には「ARPU(1ユーザーあたりの平均売上)」「継続期間」「粗利率」を設計し、「CAC(顧客獲得費用)」の下には「CAC(顧客獲得費用)」や「新規顧客数」を設定すると、課題を洗い出しやすいでしょう。
KPI管理のコツ
KPIを管理する時のコツとしては、以下のものが挙げられます。
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- PDCAサイクルを回して精度を上げる
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- 整合性をとれているか確認する
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- 適宜見直して改善する
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- データ管理しやすいものは日次で、データ管理しにくいものは月次で評価する
最初から精度の高いKPIやKPIツリーを設定するのは難しいため、PDCAサイクル(「Plan」計画、「Do」実行、「Check」測定・評価、「Action」対策・改善)を回して精密なものに仕上げていく意識を持ちましょう。
また、最終目標とKPIの整合性をとれているか、といったことを適宜見直して改善していきます。
KPIを達成しても最終目標との関連性が低く、最終目標達成には至らないなら、適切なKPIを設定できているとは言えません。
そして、データ管理しやすいものは日次で、データ管理しにくいものは月次で評価するとよいでしょう。常に現状と目標とのギャップを把握し、次のアクションに移せるようにしておく必要があります。
まとめ
本記事では、SaaS事業においてKPI管理が必要な理由や、代表的なKPIやKPIツリー、管理のコツなどを解説しました。
SaaS事業では、KPIとするべきベンチマークの指標が比較的体系化されているため、今回紹介した代表的なKPIを参考にして、KPIツリーを設定してみてください。
KPIを適切に設定および管理すると、現状把握や将来予測の正確性が増し、まだ収益が出ていないフェーズも評価できるだけでなく、社内外の関係者がSaaS事業に対する共通の認識を持てるようになります。